-心くつろぐHYGGEな時間-
こころぐ vol.21
50代から独学で始めた
着物リメイクをライフワークに
心までハレにするファッションブランド「Marisa Grace(マリサグレース)」から生まれた、暮らしにまつわるモノやコトを紹介するコラム「こころぐ」。北欧デンマーク発祥の「ヒュッゲ」という価値観を取り入れながら、心くつろぐ時間をお届けします。
日本の文化に根づく「着物」。昔は普段着として、現代ではおしゃれ着として着こなす人も多く、いつの時代も愛されてきました。海外でも人気が高く、絵柄が繊細で美しい、鮮やかな色彩が素敵と称される日本文化の1つといえます。そんな着物をリメイクし、新たな命を吹き込む作家さんがいます。
着物のリメイクを始めたのは50 代のときだったと話す、創作作家の櫻井みどりさん。
きっかけは、お母様の形見の着物だったといいます。「母は着物を仕立てて着るような人でした。私自身も着物を着ますが、どんなに美しい着物もしまいっぱなしではもったいないと、思い切ってワンピースにリメイクしました」。それまでほとんど裁縫はしてこなかったそうですが、本を見ながら独学でオリジナルのワンピースを仕立てたというから驚きです。
手前にある青いワンピースが、着物のリメイクを始めるきっかけになった最初の作品。「このワンピースが完成したとき、着物のリメイクをライフワークにしたいと思ったんです」と櫻井さん。
何かを新しく始めることは、いつだって勇気がいるもの。年を重ねればなおさら、行動することが億劫になりがちですが、着物のリメイクを始めて2年後には憧れだった自由が丘のギャラリーで個展を開催し、多くの人が訪れたといいます。
この日は朝顔の柄が華やかな綿麻の着物でブラウスを創作中。「斬新なドレスより、普段使いできる洋服を作りたい」という櫻井さん。デザインを決めてから着物を選ぶのではなく、生地を見て作るものを決めていくので、時間があるときに着物をほどき、洗って干し、アイロンをかけて反物の状態に戻しておくそうです。
羽織の裏地をリメイクしたブラウス。大柄ながら品のあるピンクなので、派手すぎず普段使いにぴったり。パンツには色抜きして白い生地に戻した振袖をリメイク。光の具合で、元の柄がほんのり透けて見えるのが素敵です。
透け感のある紗の羽織を2 枚重ねてベストに。白いブラウスの上に羽織るだけで、気軽にレイヤードスタイルが楽しめます。デザインは、ソーイング本を参考にすることが多いそうですが、そのままマネするのではなく、自分流にアレンジを加えるのがポリシーだといいます。
「もともとは両袖をはずした状態でいただいた男物の長襦袢で、腰揚げがあったので、ゴムを通してカシュクール風のジャンパースカートにアレンジしてみました」。とても貴重な古い時代のちりめんで、龍、鹿、鯛、鶴、コウモリなど、不老長寿や幸福を象徴した縁起のいい柄なので、フォーマルなシーンでも活躍します。
小さなハギレは小物に活用。「コサージュ、名刺入れ、ランチョンマットなど、いろいろ作りましたが、小物は人にあげてしまうことが多いですね」と櫻井さん。日本の情緒が感じられる和小物でありながら、普段使いしやすいものばかりです。
裂き織りした生地で作ったショルダーバッグ。裂き織りとは、使い古された着物を裂いてよこ糸にし、木綿や麻などの糸をたて糸にして織り上げた織物のこと。
底の部分はかご作家さんに頼んで作ってもらったといいます。留め具には丈夫で手の込んだ羽織の紐を再利用。ほどいた羽織を余すことなく大切に使いたいという気持ちが伝わってきます。
(さいごに)
創作活動から離れた時期もあったそうですが、今は自分の着たいものを自由に楽しみながら創作しているという櫻井さん。今後は自宅でオープンアトリエやワークショップの開催を予定しているそう。櫻井さんの新しい挑戦はまだまだ続きます。
布りーべる 櫻井みどりさん
2005 年より着物のリメイクを始める。ギャラリーでの個展や百貨店での展示・販売を経て、2007年アトリエショップをオープン。その後、いったん創作活動を離れ、生命保険会社に勤務。2019 年、退職をきっかけに創作活動を再開し、2022年に13年ぶりの個展を開催している。
Instagram:@freebell_midori
撮影:竹下アキコ
取材・文:鞍田恵子